ねこぶんがく

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【本レビュー】読書感想文におすすめの本! 草野たき『ハチミツドロップス』

※2016年に書いた記事を再掲載しています

 

 

ハチミツドロップス』(講談社文庫)

作:草野たき

ハチミツドロップス (講談社文庫)

ハチミツドロップス (講談社文庫)

  • 作者:草野 たき
  • 発売日: 2008/07/15
  • メディア: 文庫
 

 

あらすじ

明るくてお調子者の中学生女子・カズはソフトボール部のキャプテン。

カズの所属するソフトボール部は、「ドロップアウト集団のくせに、部活の甘くておいしいとこだけを味わってるやつら」という意味で「ハチミツドロップス」と呼ばれている。

部活のある日は更衣室に集まってだべるだけの楽しい青春――のはずが、体育会系の真面目な新入生の入部によって、カズたちの居場所はなくなってしまう。



感想

再読本です。初読はおととし。

「自分らしくあること」を意識しすぎるあまり、逆に自分らしさに縛られてしまうってこと、誰にでもあると思います。

これは「ハチミツドロップス」という居場所を失った女の子たちが、自ら作り上げた「自分らしさ」の皮を脱いで、本当の自分に近づくお話。

個性的なメンバーや、その裏にある個々の感情がとても秀逸に描かれています。







<※以下、ネタバレ含む読書感想文>






草野たきさんの本を初めて読んだのは小学六年生のとき。『ハッピーノート』が最初でした。

それから何年か経って、ふとあのとき大好きだった児童書の作者さんの他の作品を読んでみようと思って手に取ったのがこの本です。

 

初読の印象は正直あまりよくなくて、「え、これでおしまい?」と思った記憶があります。

何もかもが中途半端に終わっていて、「何も解決してなくない?」というのが正直な感想でした。

しかし今改めて同じ物語を読んでみると、こんなに深い話だったのか! って感じです。



主人公のカズこと果豆子(かずこ)は、元気でお調子者。

だけどそれは表の顔で、実際は「カズらしくあろう」とするあまり、本当の自分を出せないでいる弱気な女の子。

カズは、自分で作った「明るくてお調子者な自分」を「カズらしさ」ととらえ、それに縛られています。

どんなに泣きたいときでも、自分らしさを失わないために明るく振る舞おうとする、これってなかなか辛いことだと思います。

自我が発達していく過程にいる中学生だからこその悩みともいえる。

草野さんはこの辺の描写がとっても上手いんですよね。

 

“でも、もう、カズらしさにしばられたくない。私はもっと、自分を大事にしていいんだ”

 

自分に素直に生きることは、自分を大事にすることと同じなんですね。

私は今、自分を大事にしているか?

自分に素直に生きているか?

そう自問自答したくなります。



それから、このお話はきれいごとで終わらないところがまたいいんです。

 

真面目な一年生が入ってきた、楽しくてお気楽な部活がのっとられちゃう、でもやっぱりこんなんじゃだめだよね、私たちも真面目に練習しよう――

この本はこんなストーリーで終わりません。

 

運動部で汗を流して優勝することだけが青春の正解じゃない。

だから、カズたちはソフトボールに真剣に取り組むことも、部活を取り返そうとすることもありません。

最初から最後までハチミツドロップスを貫きます。

 

だけど確実に彼女たちは成長してるんです。

ハチミツドロップスを失ったことによって、それぞれが自分と向き合う時間ができる。

そこを描いているんです。

 

そして、自分と向き合ってみたことで何かが変わった人もいれば、これから変わろうとする人もいる。

みんながみんなきちんと答えを見つけたわけじゃない。

この不完全さがリアルなんです。

 

自分に素直に生きようと決意したカズ。

自分の気持ちに気付きかけている真樹。

自分の気持ちに気付いて、素直になろうとしている高橋。

最初から自分に素直に生きていた矢部さん。

そして、うまく自分と向き合えずに未だ苦しんでいる田辺さん。

 

それぞれがそれぞれのペースで生きているから、答えにたどり着くまでの距離が同じなわけはないんです。

ちょっとだけ何かが変わった、ただそれだけ。

この本に書かれているのはたったそれだけ。

「それだけ」に気付けるようになった私も、たぶん二年前の私とは違うのでしょう。