ねこぶんがく

文芸好きが本や映画の話をするブログ。

2020年おもしろかった本 Best10

 

タイトルでBEST10と掲げたものの、順位付けが難しかったので読了順に紹介していくよ!

 

 

1. 夏目漱石文鳥

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)
 

 

 これはシンプルに美しかった。語り手はもらってきた文鳥を最後に死なせてしまうんだけど、その様に昔の女の面影を重ねて終わる締め方が見事だった。文鳥の世話をする前半場面の微笑ましさから一転して、物語が空恐ろしさと残酷性を帯びる瞬間がたまらない。これぞ純文学って感じ。

 


2. 三島由紀夫仮面の告白

仮面の告白 (新潮文庫)
 

 

 これも文学的にすごい!!っていう意味合いでBest10入り。性的に不能な主人公の苦悩を描いた作品。

 語りたいことは多々あるんだけど、一つだけ選ぶとするなら、主人公の思い人である園子が谷崎潤一郎の『蓼食う虫』を読んでいる場面。主人公にとって純愛の象徴である園子に、よりにもよって完全なる性愛の世界を描いた『蓼食う虫』を読ませる周到さにぞくぞくした。

 


3. コレットシェリ

シェリ (岩波文庫)

シェリ (岩波文庫)

  • 作者:コレット
  • 発売日: 1994/03/16
  • メディア: 文庫
 

 

 あらすじ的には中年女性と若い男の恋の話なんだけど。私はむしろここで描かれている女同士の友情の方に惹かれた。主人公とその友人は決して互いを気遣い合うような関係じゃない。会えば互いの身なりを胸の内で評価し合うし、失恋で弱ってるところなんて見せたくない。「女同士ってドロドロしてるよね」のドロドロを体現したような友達関係。なんだけど、互いに張り合うことで刺激がもらえる、だから彼女はやっぱり友達だ、と主人公は言い切るの! ここがすごく良くて!! 私は常識を打破るような作品が好きなんだけど、『シェリ』は友情の常識を覆してくれた作品だった。

 

 

4. 安部公房砂の女

砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)

 

 

 ストーリーとしても面白いし、文学としても面白かった。主人公が砂でできたアリ地獄みたいな穴の中に閉じ込められて、脱出しようともがく話。

 以下ネタバレになるけど、──主人公は最後には砂からの脱出を諦めてしまうのね。諦めたっていうよりも、別にここの生活も悪くないかって納得しちゃう。冒頭で砂の特性について(砂にはどんな生き物も適応できないとか何とか)書かれているんだけど、この話を読むと、人間の特性はどんな環境にも適応してしまうことなんだと思わされる。それを世間では妥協と呼ぶ場合もあるけれど、私は前向きに「適応」だと言いたい。少なくとも『砂の女』からはそういった印象を受けた。

 


5. 古井由吉『杳子』

杳子・妻隠(つまごみ) (新潮文庫)

杳子・妻隠(つまごみ) (新潮文庫)

  • 作者:古井 由吉
  • 発売日: 1979/12/27
  • メディア: 文庫
 

 

 本当の文学とはこういうものなんだ、と目を開かされる読書体験だった。とにかく描写が密で、あらゆる感覚、感情を余すところなく文章で表現していて。本を読む時、私はつい内容(どんなテーマを扱っているとか、話の筋がどうだとか)にばかり目を向けがちだった。でも『杳子』を読むと、文学が文章の芸術だってことを思い出して、言いようのない高揚が生まれて。今さらすぎるけど、文学でやれることの幅の広さに感動した。そのきっかけをくれた作品。

 


6. 遠藤周作『沈黙』

沈黙(新潮文庫)

沈黙(新潮文庫)

 

 

 単純に面白い!! 一気読みでした。日本におけるキリスト教がどうだとか、信仰がどうだとか、そういうのは正直あんまり興味がなくて。でもこの作品はストーリーを読ませる技術が高くて、ページをめくる手が止まらないランキングなら三番の指には入ると思う。

 


7. 島崎藤村『春』

春 (新潮文庫)

春 (新潮文庫)

 

 

 入れようか迷ったんだけどね。藤村は今年好きになった作家でもあるし、好きになったきっかけがこの『春』だったから。

 青年時代の心の動揺と陰を描きつつ、ただ憂鬱に酔うのではなくて、生きようという強い意志が根っこにある作品。似たような作品でも、佐藤春夫の『田園の憂鬱』とは土壌が違うよね。私は田園の方に共感するタイプだから、藤村のことは興味深い観察対象みたいな感じで読んでる。来年は『夜明け前』(全4巻もある…)を読むのが目標です。

 


8. 小野不由美『風の万里 黎明の空』

 今年一番ハマったシリーズものといえば、小野不由美の「十二国記」シリーズ! その中でも一番面白かった作品が上記。

 異なる境遇の女の子3人が、それぞれの葛藤を抱えて闘うところが最高に好き! 気の強い女の子が大好きなので、読んでいてとっても気持ちが良かった。

 


9. 山内マリコ『ここは退屈迎えにきて』

ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て

 

 

 どこに行っても居場所を見つけられない孤独感を、上京者と結びつけて描く物語に共感した。今年一番ハマった作家と言っても過言ではない。

 


10. 綿谷りさ『私をくいとめて』

私をくいとめて (朝日文庫)

私をくいとめて (朝日文庫)

 

 

 今年ハマった綿谷りさ作品の中でも一番心に刺さった作品を選んだ。

 綿谷りさは描写によって主人公の特徴を浮き彫りにするのが上手い作家で、『蹴りたい背中』では蜷川という男子の名前を「にな川」とひらがなで書くことで、主人公がまだ幼い女子高生であることを強調していた。『私をくいとめて』は脳内のイマジナリーフレンドと会話をしてしまうほど孤独な日常に慣れてしまったアラサー独身女の生活を描いた作品。この作品でも主人公の目線で描写されるものを日常の半径3メートルくらいのものに絞り、湯がわいたとか道路の水たまりがどうとか、どうでもいいことばかりを選んで描くことで、変化の少ない主人公の日常を際立たせている。

 

 

 

 以上! 2020年は量的には例年の3分の2程度しか読めなかったけれど、質的にはまあまあいい本に出会えたと思う。

 来年もいい本に出会えますように!!

 

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