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【書評】芥川賞候補作! 宇佐見りん『推し、燃ゆ』レビュー ※ネタバレなし

今回は第164回芥川賞候補作の一つ、『推し、燃ゆ』をネタバレなしでレビューしていきます!

 

宇佐見りん『推し、燃ゆ』

 

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

 

 

あらすじ

ある日、推しが彼女を殴って炎上した。実生活では何をやっても上手くいかず、推しだけを背骨にして生きてきたあかり。そんな推しが燃えてしまったことで、あかりの生活は少しずつかみ合わなくなっていく。

 

 

 まず驚いたのは作者の年齢でした。1999年生まれの21歳、現役大学生。いやー、ついに年下の作家が出てきてしまったか……。まだ何者にもなれていない自分と比較して何だかちょっと複雑な気持ち。でもでも、キャッチーなタイトルと芥川賞候補作という話題性に惹かれて、つい手に取ってしまいました。

 読んでみると、文章の激流に圧倒されました。読点が少ないからか、読み手に息をつく隙を与えてくれない! 先へ先へと乗せられるまま読み続けて、気付けば結末まで運ばれていた感じ。主人公・あかりは冒頭で何らかの障害を持っていることがほのめかされるのですが、「普通」ではない彼女が目の前の出来事を処理するのにあっぷあっぷしている様子が、この隙のない一人称語りの文章から伝わってきます。

 

 

「推し」を解釈すること

 あかりは推しがテレビで発した言葉やコンサートでの立ち振るまいをすべてメモに取り、それを元に推しを "解釈" することを喜びとしています。推し専用のブログまで立ち上げて、上手くいかない実生活とは裏腹に、ブログの固定ファンも大勢いるようす。あかりは推しを解釈することで自分を知ることができるのだと語っています。

 私がひやっとしたのは、推しを解釈することを「推しを取り込む」と表現している箇所。なんだこの怖い表現は。推しを取り込むことで見えてくる自分って、本当に自分なんだろうか? そうまでして否定したい自分って、現実って、なんなんだろう。私には、あかりが推しを解釈することで、推しに成り代わって現実の自分を上書きしようとしているように見えました。

 

私の推しは誰か

 ここまで考えたとき、「あれ、これって私のことかもしれない」と思ったんです。私は特定のアイドルを推しているわけではないし、この人に人生を捧げる! みたいな熱を持ったことも今までありません。だけど、本を読んで作家のことを知りたい、作品を解釈して自分のものにしたい、という欲求は、現在進行形で抱き続けています。あれ? 私の推しって作家じゃん!

 あかりの言う「推しを通して自分を知る」という意味を、やっと自分事として捉えられました。私も本を読んで、作品を解釈して、この作家はこんな人なんだろうと想像し、知ることができた喜びに浸る(そしてブログも書いている笑)。推しを取り込み、自分を知る手がかりとして利用しているのです。

 推しを通して自分を知ること。推しを通して自分を語ること。推しを媒介にして人とつながり、生きるエネルギーを得、時にほどよく現実逃避しながら、私は生きているのだなあと思いました。

 

 

誰しも心に推しを飼っている

 私たちは、というか、多くの趣味人は、誰でも推しの一人や二人(一つや二つ?)いるのではないでしょうか。推しを推すことは生きがいです。だけど、推しはゴールであってはいけないのです。推しを推しながら、自分の核を見つけ、自分は自分として生きていかねばなりません。あかりの推し活がどうなったか、それは本書を読んでみてのお楽しみ。ただ、私はあかりが一歩前に進んだような気がしました。

 

 

今日のまとめ

  • 宇佐見りん、推せる
  • 推し作家って年齢とともに移りかわっていくよね
  • あなたの推しは誰ですか?

 

以上。

 

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