佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』
佐藤多佳子『明るい夜に出かけて』
あらすじ;
とある事件をきっかけに、大学を休学してコンビニでアルバイトを始めた富山。自称「歌い手」のバイト仲間・鹿沢や、深夜ラジオのリスナー同士である女子高生・佐古田、旧友でありトラウマの要因を作った人物である永川と関わるうちに、自身の世界を取り戻していく。
登場人物がこの世のどこかできっと生きていると信じられる物語だった。久しぶりに本の中に友人を見つけられた気がした。
人それぞれに自分だけの生活があるし、私の人生は私のものにしかならない。だから一人で背負っていくしかない。けれど、辛い時には“明るい夜“が支えてくれる。富山にとっての深夜ラジオがそうだったように。
富山はラジオを通して出会った人たちと関わる中で、自分だけの人生の輪郭を少しずつ掴んでいったように感じた。そして彼らとの交流が、また自分だけの生活に戻る勇気を富山に与えたのだと思う。
人は結局のところ一人で生きていくものだと私は考えているけれど、一人で生きていく勇気を得るために、私たちは誰かの存在を求めるのかな、と思ったりもした。
富山にとっての明るい夜はラジオだったけれど、私にとっての明るい夜は本だ。どんなに暗い人生を送っている時でも、本が灯りを灯してくれたから、私は今も生きていられる。そしてこの本も、そんな夜に浮かぶ灯りの一つになった。
最後に、なんの脈絡もないようだけど、この本を読んでいたら、昔書いていた小説の登場人物たちを思い出した。生きるのが辛いとき、彼らの物語を考えて、一緒に人生を考えることに慰められていたなと。
そんな彼らは今どうしているだろう。
完結こそさせられなかったけれど、当時は物語の結末まで考えていた。今の私は彼らの行く末をどう導くだろう、どう導きたいのだろう。
もう一度彼らの物語を続けてみようかな。そしたら以前とは違った結末を用意できる気がする。