ねこぶんがく

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ハン・ガン『菜食主義者』

 

ハン・ガン『菜食主義者

 初めて韓国文学を読んだ。韓国文学、数年前から流行ってるよね(K-POPブームとも関係がありそう?)。しばらく本屋に行かなうちに続々と翻訳が進んでいたみたいで、選択肢の多さに驚いた。

 韓国文学を読むのは今回が初めてだったので、偏ったイメージがつきにくそうで、かつ韓国文学の雰囲気を十分に感じられそうなこの本を選んだ。

 

 物語は、急に肉食を絶ったヨンヘとその周辺の人物を中心に描かれる。

 菜食主義者になるということがこの物語の中でどういった意味を持つのか、あとがきを読みながら考えてみた。

 

 動物としての人間を辞めて、考えることを辞めた植物になること。植物のように何も考えず、誰の影響も受けず、ただそこにあるだけの存在になりたいというヨンヘの願望が、肉食を辞め(=動物であることを辞め)、菜食主義者(=植物と一体化する)になるという形で現れたんじゃないだろうか。そして周囲はそんなヨンヘを狂人と呼ぶ・・・。

 私は昔、人生の何もかもが嫌になって、もう誰とも関わりたくないし何も考えたくない、と思いながら毎日を過ごしていた時期があった。ヨンヘの願望はこうした思いが加速した結果ではないだろうか? 昔の私がこの本を読んだら、無条件でヨンヘに共感していた気がする。

 

 逆にヨンヘの姉は、自分の人生を生きているか死んでいるかもわからない苦しいものだと自覚して、いっそ狂人になってしまえたら楽なのにと思いながらも、これからも生きていく決心をする。この決心は決して前向きなものではなくて、むしろ地獄に飛び込む覚悟のようなものろうことは容易に想像がつく。

 私も含めて、大抵の人は(自覚しているか否かはともかく)、人は死ぬまで生きるしかないという、ある意味では諦めの元に生きていると思う。けれど、ヨンヘの姉は一度深淵を覗いてそこから自分の意思で立ち戻ってきたという自負があるから、月並みな言い方だけど、きっとこれまでより強く生きていけるのではないかと思った。

 

 

 それから今回少し意識して読んだ「韓国文学らしさ」について。

 ヨンヘを狂わせた原因には、権威的な父親の暴力、おそらく家柄や社会的地位で選ばれた結婚相手、出世のことしか頭にない夫などがあると思うのだが、この辺りの要素はものすごく韓国らしいなと思った。韓国で生きる女性(上流層限定?)に共通する地獄なのかなと。

 そして第二章に出てくるヨンヘの義兄には、韓国男性の地獄(=出世競争から外れることの恐怖など)が凝縮されている気がする。

 

 どちらにしても、過度な競争社会が問題としてあるのかな。この本の最初から最後まで通して感じたのは、圧倒的な「疲れ」だった。

 

 

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