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【本レビュー】万城目学『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』ネタバレレビュー

 ※2015年に書いた記事を再掲載しています

 

 

かのこちゃんとマドレーヌ夫人

作:万城目学

 

かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (角川文庫)

かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (角川文庫)

  • 作者:万城目 学
  • 発売日: 2013/01/25
  • メディア: 文庫
 

 

あらすじ:

好奇心旺盛な小学1年生・かのこちゃんと、気高いアカトラ猫・マドレーヌ夫人の物語。

ある日マドレーヌは、夫の玄三郎(犬)から猫股の話を聞く。

お昼寝から目覚めたマドレーヌは、しっぽを見て愕然とした――。

一方かのこちゃんは、早朝の教室で両の親指を鼻に突っ込み、残りの指をひらひらさせていたすずちゃんと仲良くなりたくてたまらない。

しかしすずちゃんはかのこちゃんを避けているようで……。





(※以下ネタバレ注意)




今回は再読本です。

 

最近再読にハマっておりまして、なかなか新しい本に手を出せないでいます。

この『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』も、初読は確か高校2年生のはじめくらいだったと思います。

本棚の背表紙を眺めていてふと目についたので、思い切って再読しちゃいました。



何度言われても親指しゃぶりが直らなかったかのこちゃんが、ふやけた親指をマドレーヌに噛まれたことをきっかけに「知恵が啓かれ」る。

二人の物語はすでにこのときから密接に関わりあっていたのでしょう。



マドレーヌは朝、近所の空き地で行われる「朝の集会」に顔を出すのが日課です。

仲間の猫たちとともに、他の猫の噂話や人間批判に興じます。

曰く、「テレビの形が箱型から薄っぺらいのに変わったせいで、お気に入りの場所がなくなった」……等々。

私も近所で猫の集会をよく見かけますが、やつらの間ではこんな話が交わされているのかと思うと楽しいです。

 

個人的にツボだったのは、集会メンバーの三毛猫の名前が「ミケランジェロ」だってこと!

三毛だからミケランジェロって、なかなか思いつかない気がするんですが(笑)



そうそう、猫のマドレーヌの夫は、かのこちゃんちの飼い犬、玄三郎さんです。

種族を超えて愛し合う2人(2匹)にはじめは渋い反応を示す猫たちでしたが、マドレーヌの堂々とした口ぶりを見て黙り込んでしまいます。



“「ち、ちょっと待って、相手は犬よ?」

「どうして? お互い言葉が通じるんだから、別にかまわないと思うけど」

「かまわないって……だって、別の種よ。子どももできない」

(略)

「ええ、もちろん。でも、お互いが望むなら、いっしょに暮してもいいでしょう」”



最後のマドレーヌ夫人の言葉、もっともだなぁと思います。

同時に近年何かと話題になっている同性婚問題がとっさに頭に浮かびました。

私は容認派ですが、その理由は上記のマドレーヌ夫人の言葉で十分でしょう。

「一緒にいたいからそうする」ことに、どうして赤の他人がわざわざNOを突きつける必要があるのかと私は思います。

男女の夫婦でさえ近頃は子どもを望まない夫婦も増えているというのに、子どもができないからという理由で禁止するのも、なんかズレている気がしてしまうんですよね。

それこそ、女は子どもを産むために存在してるって言ってるようなもんじゃないですか。

こればっかりは個人の考えなので何とも言えませんけど。



一方かのこちゃんの方もかなりユニークな女の子でありまして。

いや、友達のすずちゃんも負けないくらいユニークなのですが、この二人の会話がとっても面白いんですよね。

だって、仲良くなったきっかけがウ○コ柱って……!

さすが小学1年生、下品を下品と思わない言動。

なんかもう、本当に毎日が楽しそう。うらやましいです。

 

最後、すずちゃんが転校してしまうとき、私も泣きそうになってしまいました。

子どもは感受性豊かですから、悲しい・寂しいという気持ちを何倍も大きく感じてしまうと思うんですね。

理屈なんて考えずに感情をそのまま爆発させられるのは、子どもの特権です。

なんだかこれもちょっとうらやましい。



でもやっぱり、一番心に残ったのはマドレーヌ夫人の冒険かなぁ。

一度目も、二度目も。

 

猫には猫の、犬には犬の伝達手段がある。

犬は吠えることで、町中に言葉を伝えることができるんですね。

玄三郎さんが最後の力を振り絞って、町中の犬に伝えたこと。

「マドレーヌ」というエールに、胸が熱くなります。

間違いなく、この本の中で一番大好きなシーンです。

 

いよいよ具合が悪くなったとき、うちの人を呼ぼうかと尋ねるマドレーヌに首を振り、最後まで一緒にいたいと告げる玄三郎さん。

「だって、きみは僕の妻じゃないか」

この一言だけで、ああ、愛し合っていたんだなって分かりますよね。

いい夫婦だ。