【本レビュー】ウェルズ『通い猫アルフィーの奇跡』
※2015年に書いた記事を再掲載しています
小説『通い猫アルフィーの奇跡』(ハーパーBOOKS)
原題:Alfie the Doorstep Cat
作:レイチェル・ウェルズ
訳:中西和美
あらすじ:
飼い猫として幸福な生活を送っていたアルフィーは、飼い主の死により野良猫になることを余儀なくされる。
しかし愛情に飢えた野良猫暮らしは長く続かず、アルフィーは通い猫になることを決意した。
四軒の家に通いながら愛情をもらい、また与える生活。
そこでアルフィーが起こした奇跡とは。
感想:
年の瀬にとてもいい本を読んだ!
アルフィーが通う4軒の家にはそれぞれ不足を抱えた人々が住んでいて、アルフィーもまた人間の愛情を求めている。
はじめは生きるために通っていたのが、いつの間にか人間たちに愛着が芽生えていく過程がよかった。
生きるために必要なのは思いやりで、思いやりは他者がいないと生まれない。
<ネタバレ注意>
いやー、年の瀬にいい本に出合いました。
全英絶賛という帯の文句だけあって、今年読んだ本の中でもベスト10には入るくらい面白かったです。
アルフィーが通う家の人々は、みんな何か問題を抱えています。
離婚の喪失感だったり、孤独だったり、郷愁だったり、育児疲れだったり。
みんな日々の暮らしの中に小さな揺らぎに動揺し、助けを求めているんですよね。
その揺らぎの間から忍び込んで活躍するのが、通い猫のアルフィーです。
アルフィー自身も元の飼い主とお姉さん猫を失った孤独感に苛まれており、人間の愛情を求めています。
はじめは生きていくための手段として通い猫になる道を選んだのに、四軒の家に通ううちに愛着が芽生えていく、この過程があったかかったです。
人間には猫のぬくもりが必要で、猫もまた人間の手を借りなければ生きていけない。
「苦難を乗り越えるためにいちばん肝心なのは思いやりなんだ。だれにとっても」(本文より)
この言葉にぐっときました。
思いやりは他者がいなければ生まれない。
何でもかんでも一人でやれると思いがちだった私は、他者とのかかわり合いの大切さに気付かされました。
野良猫になるときに何もかも失ったと思っていたアルフィーには、愛という宝物があったんですね。
その愛は前の飼い主とお姉さん猫にもらったものです。
アルフィーはその愛をみんなに分け与えることで、自分もまた新たな愛情を得ていたんですね。
何かを成し遂げるのに他者の力を借りないことは絶対ないと思います。
さまざまな人の助けがあってこそ今の自分がある、という気持ちは常に忘れないようにしたいものです。
そうすれば私も見ず知らずに人にだって思いやりを持てるはずだから。
それからこの作品を通して、人間心が不安定なときほど何かにすがりたくなって、誤った判断をしてしまいがちなんだと思いました。
クレアとジョナサンの例がそれです。
それぞれ不安や孤独から逃れるために、必死になって目の前のものにしがみつこうとしていました。
目の前のものしか見えていないことに気が付かずに。
これってとっても恐ろしいことだと思います。
自分がその状態に陥ってるときは絶対に気が付けないから、なおさら。
そういうときにふと立ち止まって、まわりを眺めてみることができればいいんですけど、これがなかなかうまくいかない。
ここでも他者の力が必要だなぁと思いました。